Enter The Void

1991, Tokyo. A trader from the country side. Book

祈り続けるロザリオ

私達の春は秋に始まる。期末。

 

人々は片足をついてロザリオと共にマリアへ祈りを捧げ、紫外線が大地を襲い、地中海を煌めかせる。国中を覆いつくす磔刑のイエス像。勢いよく揺れるバスのなかで思いおもいに車窓を見つめる人々の、穏やかな、されど途上国特有のどこか無気力な疲れた横顔。人々の祈りを永遠に受け止め続ける教会の中で、座り尽くすしかできなかった頃…どんなにうらびれた商店も遊園地より物珍しく、楽しかった。私の足は今も夢を追って出た先に巡り合ったふたつの国のかけ合わせでできている。

 

金木犀の香りが漂う頃になると、私も新地へパスポートを握りしめて乗り込む前の嵐の前の静けさを思い出す。時は経ち、またひとつ始まっては終わっていく。繰り返す出会いと別れの中で、錆びて動かなくなってしまう心のハンドル。「さよならも言う価値が無かった」と己の贋作を悔やむ度に、硬くなっていくハートの鎧に手をこまねいて年をとっていく。繰り返す失望は、少しずつ、私達を独り立ちさせて、そして遂に、誰の手も恋しいと思わなくなる…。

 

それでも、心のなかで消えないで燃えている小さな情熱がある。あの日と変わらない。

微かな炎を必死に扇ぐと、みるみる大きくなっていく。あなたは大人になって忘れていった。都会で厳しく戦ううちに、高層ビルの景色に馴染んで忘れていった。アルコールと路地裏のネオンに迷い込んで忘れていった。あなたはあなたを忘れそうになっていたんだ。もう決して忘れないで、自分を蹂躙するのはいつだって自分自身だということ。

あなたには誰にも譲れないgiftがある。あなたにしか水をやれない、冒険のgiftをもっているんだから。きっと大丈夫。だから思い出して、勢いよくこれからの未来を歩いていってね。まるで夜明けなんて来ないように思える日々にだって、今日までに過ごした一歩一歩がそばにいる。あの日のまま引き出しで眠っているお守りのロザリオ。彼女は今日も、この不幸な国から彼方を呼んで祈り続けている。