Enter The Void

最近はジャズとちひろさんに夢中です。

Not in the mood

熟年離婚の危機です。十四年間に亘って欧米的な激しさで彼女のことを熱烈に愛してきたのですが、悲しいことにそれが彼女には重かったらしい。近頃、ありとあらゆるスキンシップを1.5秒後に拒まれる。Don't touh me, I am not in the mood. 

(でもやっぱり可愛くて仕方がないのですぐ構いにいく。天使ちゃんでちゅね~本当にぶーちゃんはかわいいでちゅね~。そしていやがられる。ループ。)

 

テレワークで家にいる夫が鬱陶しくなり、夫婦仲が悪化したという話をたまに聞く。猫にとっても、飼い主元気で留守が良いようです。私は外出して数分で君に会いたくなるというのに。

 

それに比べて、犬というのは非常に情緒豊かで分かりやすいやつだ。

好きぃぃ~!愛してぇえ~!激しく愛してぇ~!自分だけを愛してぇ~!と、全身で体当たりしてくる。目の前で他の犬を可愛がろうものなら、彼らは嫉妬狂って落ち込んでしまう。それこそ、欧米的なドストレートな激しさで愛してあげないとしぼんでしまういきものなのだ。

 

私は、本当はワンちゃんとの方が相性が良いのだろう。例え惹かれるのは賢くて、少し陰のある、猫科の気難しい女性でも。

 

特に池袋や新宿の街を歩いていると、よく同種のgirls (guysやbroの方がしっくりくるかも。笑)とバチーンと目が合う。不思議なもので、私たちはこんなにも互いに無関心な都会の人の濁流の中でも、お互いをくっきり浮かび上がらせて見つけてしまうものらしい。申し訳ないのだけど私はあの瞬間が強烈に苦手だ。死ぬほど居心地が悪い。視線の度に、どうしても筆舌につくせぬ不快感に襲われてしまう。慣れない。

 

別に全員がニヤニヤしてくるわけでもなんでもないんだけど。「ァータ、こっちからばっちり浮いてるよ、見え見えだよ、お仲間さん」、と勝手に言われている気がしてしまうからなのだろうか。最近は、通勤列車のなかでも行き会う。

 

考えてみたら、私のこの抵抗感も犬と犬が散歩ですれ違うときに「ワンワンワンワン!!!」と威嚇し合うのと同じレベルなのかも知れません。

 

朝の山手線。最寄り駅で降りようとすると、今日もまたいつもの「彼女」がゲートの前に立って乗車を待っている。身体のサイズに合わないズボンや、どこかちぐはぐなシャツ、色の抜けた明るいウルフカットで、汗をかいたサラリーマンに押しつぶされながら彼女がどこへ向かうかは誰も知らない。私たちは男の体を押し返すのではない。宙に浮いて、ニヤニヤして生き延びていたりする。幽霊の体には触れられない。殴ることはできない。

 

私はもう、彼女からどんなに深く顔を覗きこまれても、ワンワン言わない。この街から、社会から、やっぱりくっきり浮いている彼女を尻目に、素知らぬ顔で足早にオフィスに向かうことにする。ほんの1.5秒だけ、私も清潔で優秀な港区の人のふりをして。

 

Have a nice day bro!