Enter The Void

最近はジャズとちひろさんに夢中です。

復讐

 


無礼講。仕事を早く切り上げて、会社で花見をしてきました。池の傍、桜が舞う上野公園のど真ん中にある和食屋さんは少々迷宮めいた複雑な構造をしています。小さな門構えの暗い和装の店内へ入ると、暗い細い廊下に沿って和室があるかと思いきや、今度狭い階段を上がった先にはテーブル式の個室まで数部屋。桜を眺めながら落ち着いて会食ができるのです。個室の窓の外からは、これまた一段低い部屋のカウンターから花見に興じる人々が見える。まったく不思議な形をした魔宮。何部屋あるのか想像もつかない。その昔は、お座敷遊びでもやってた場所なんでしょうか?

 

そうして目にも舌にも楽しい食事をとって、仲間たちと楽しい時間を過ごさせてもらった後は、昼の能面を外して夜の本番です。そもそも紀伊国屋のすぐ傍だったり、奇妙な仲間達との縁が深い場所だという事情もありますが、歌舞伎町の無作法な無法地帯感が私は好きです。お行儀もモラルも前世に置いてきたよ、って感じ。特にそこで何をするわけでなくても、秘密を抱えてやさぐれながら歩くにはなんだか良い街なのです。

 

しかし、昨日はちょっと歌舞伎町の路地で立ち止まってスマホを眺めていた時に、妙に男性の視線が鋭いことに気が付きました。なんでだ?と思ったら、立ち止まった隣のビルが店舗型ヘルスでした…。彼らのどこか居心地の悪そうな敵意の理由を一瞬で察しました。すいません。

 

お店へ入りかけたと思ったら逃げ帰ってしまう大人しそうな青年。思わず心の中で大丈夫だよ、逃げないで、きっとお金で得られるものもあるはず…と励ましたい気持ちが湧いてしまう。ごめんなさい。でも、秘密と共に迷い込んでくる、そういう人たちの為に開いている夜の窓はあるのだし。と、思わず分かったようなことを言いたがってごめんなさい。まったく、私も絶食系のヘタレの癖に。

 

ここもまた細く入り組んだ新世界への道ばかりの魔宮である。

歌舞伎町。ぼんのうとのたたかい。誰が置いたんだろう。(笑)

 

普段は解放感いっぱいの気持ちで夜の街に駆り出すのに、なんだか昨日はその夜の顔が溶けてのっぺらぼうになってしまう気がしました。自分が吹けば飛ぶ砂でできているような。あの辺りで行きかう人たちは、潔いほど自分の行き先が分かっていて、夜の顔を愉しんでいます。ホストに手を引かれて、毛ば立ったストッキングにほどけた靴紐でフラフラ歩いていく女の子も、ひらひらとお人形のような服を着て瞼の下を赤くはらした双子みたいな女の子たちも、道の先に待つ煌びやかな愉しみ以外は頭にないかのよう。とても楽しそう。反対に、私はそこに居場所をもたない場違いな観光客です。

 

熱心に考えた目標や、退院後の努力がなんとか実ってか、会社では上の人たちからお褒めの言葉を色々といただいて、私の昼の顔は表面上は順調と言えるようです。(影ではバタバタすり減ってますが♡)しかし、昼の能面を深く、上手く被るほど、夜の顔は溶けて薄くなるんでしょうか。そうして沈んで街を徘徊しているうちに、死んだはずの記憶がよみがえってきます。今は優先順位をつけられないと、切り捨ててきた沢山のこと。人。面と向かって何度も食い下がった子の勇気に、想いに、機会も与えなかった。過去の自分の、驚くべき鈍さ。残酷さ…。会う時間すら惜しんだ。

 

私の人生には要らないよ、と傲慢にも捨ててきた諸々が、幽霊になって、ひとりぼっちで都会で迷っている私を、今になって取り囲んできます。誰から復讐されているの?勿論、私自身でしょう。